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2025.12.26

「MEDDPICC」とは?複雑なBtoB商談で成約率を高める営業フレームワークの実践方法

「案件は進んでいるはずなのに、最終的に受注に至らない」
「パイプライン上では有望に見えていた案件が、突然失注する」

アカウント営業に向き合う中で、こうした違和感を覚えた経験はないでしょうか。個々の打ち合わせは前向きに進み、次のアクションも合意できている。それにもかかわらず、案件全体として見ると、受注確度の判断が大きく外れてしまう。この状況は、営業個人のスキルや努力だけでは説明できません。

背景にあるのは、案件を取り巻く「意思決定の進み方」が変わったことです。現在の購買行動では、営業と接触する前から、顧客自身が情報を収集し、選択肢を比較し、一定の方向性を持った状態で検討を進めています。営業は、案件の最初から意思決定をリードする存在ではなく、途中から検証や調整の役割で関与するケースが増えています。

その過程で、判断は一人に集約されるのではなく、複数の関係者に分散して行われます。それぞれが異なる評価軸を持ち、検討や承認は非同期かつ段階的に進んでいきます。結果として、営業が直接接触できている会話や反応は、案件全体の意思決定のごく一部に過ぎなくなりました。

この構造変化によって生じているのが、「今、この案件はどこまで進んでいるのか」「何が決まり、何が決まっていないのか」を正確に把握できない状態です。従来の感覚や経験に基づく判断では、案件のヨミが合わなくなっている。これが、今多くの営業現場で起きている問題です。

本記事では、この変化がアカウント営業の現場でどのような課題として現れているのかを整理したうえで、案件を構造的に捉え、判断精度を高めるためのフレームワークであるMEDDPICC(メディピック)について解説していきます。

アカウント営業の現場で増えている「説明できない案件」

アカウント営業の現場では、「なぜこの案件が失注したのか」「どこで判断が止まったのか」を明確に説明できないケースが増えています。打ち合わせの回数を重ね、関係性も築けている。それにもかかわらず、結果として選ばれない。こうした案件が続くと、現場には漠然とした違和感が残ります。

こうした案件に共通しているのは、活動そのものに大きな問題が見当たらない点です。提案の機会はあり、相手の反応も悪くない。次のアクションも合意されている。しかし、案件全体を振り返ろうとすると、「どこまで合意できていたのか」「誰の判断が必要だったのか」といった核心部分が曖昧なままになっています。

その結果、営業担当者は「やるべきことはやった」という感覚を持ちながらも、マネジメントや経営に対して、なぜ受注に至らなかったのかを説明できません。これは個人の能力の問題ではなく、案件の実態を捉えるための共通の視点が、組織内に存在していないことによって生じる構造的な課題です。

なぜ案件は「感覚」では判断できなくなったのか

説明できない案件が増えている理由は、案件を評価する際の判断が、依然として営業個人の感覚に委ねられていることにあります。誰と話せているのか、どの基準で評価されているのか、どのプロセスを経て最終判断に至るのか。こうした要素が整理されないまま、案件が前に進んでしまいます。

判断軸が共有されていない状態では、同じ案件を見ても、人によって評価が分かれます。ある営業担当者は「進んでいる案件」と捉え、別の人は「まだ不確実な案件」と判断する。このズレは、案件のヨミを難しくするだけでなく、組織としての意思決定やリソース配分にも影響を及ぼします。

つまり、アカウント営業における本質的な課題は、案件が複雑になったことそのものではありません。その複雑さを前提に、案件を分解し、評価し、判断するための共通の枠組みが存在していないことにあります。

この課題に対して、案件を構造的に捉え、「何が決まり、何が決まっていないのか」を可視化するためのフレームワークとして用いられているのが、MEDDPICC(メディピック)です。

MEDDPICC(メディピック)とは──案件を「評価できる状態」にするためのフレームワーク

MEDDPICC(メディピック)とは、案件の進捗や受注確度を、感覚ではなく構造で評価するための営業フレームワークです。いくつかの観点に分解し、「どこまで決まっていて、どこが未確定なのか」を整理することで、案件の実態を可視化することを目的としています。

MEDDPICCは、以下の8つの要素で構成されています。

  • Metrics(定量的な指標)
  • Economic Buyer(最終的な意思決定者)
  • Decision Criteria(意思決定の基準)
  • Decision Process(意思決定プロセス)
  • Paper Process(契約・承認に関わるプロセス)
  • Identified Pain(解決すべき課題)
  • Champion(案件を内部で推進する存在)
  • Competition(競合・代替手段)

重要なのは、これらを「すべて埋めること」そのものではありません。MEDDPICCの本質は、案件をこの8つの観点で分解することで、曖昧だった判断を言語化し、議論できる状態にする点にあります。

「この案件は進んでいるのか?」という問いに対して、「感触としては良い」ではなく、「何が決まっていて、何が決まっていないのか」を説明できるようにする。そのための共通言語として、MEDDPICCは機能します。

MEDDPICCの8要素で、案件評価の視点として理解する

前章では、MEDDPICCが「案件を評価できる状態」にするためのフレームワークであることを整理しました。
ここからは、MEDDPICCを構成する8つの要素を、案件を分解して見るための判断軸として確認していきます。

Metrics:案件の価値を、定量的に説明できているか

Metricsは、案件が成立した場合に、「顧客が得られる価値」を定量的に説明できているかを見る視点です。この観点が曖昧な案件では、判断が後回しにされやすく、案件の優先度も上がりません。成果が定量的に語れない案件は、最終判断の場で説得力を欠きやすくなります。

Economic Buyer:最終判断に影響を持つ人物は誰か

Economic Buyerは、最終的な意思決定に責任を持つ人物を指します。最終的な意思決定に責任を持つ人物を指します。この人物像が整理されていない案件では、現場での合意が進んでいても、どこで判断が止まるのかが見えません。案件のヨミが外れる背景には、この視点が抜け落ちているケースが多くあります。

Decision Criteria:何を基準に選ばれるのか

Decision Criteriaは、自社サービスが選ばれるかどうかを左右する評価基準です。価格、機能、リスク、将来性など、何が判断軸になっているのかが見えていない案件では、提案の方向性が定まらず、比較検討の局面で失速しやすくなります。

Decision Process:判断はどの順序で進むのか

Decision Processは、意思決定がどのようなステップで進むのかを見る視点です。どの段階で誰の判断が必要なのかが整理されていないと、「次に何が起きるのか」を予測できません。その結果、案件の進捗判断が感覚的になってしまいます。

Paper Process:意思決定の先にある手続きは何か

Paper Processは、契約や承認にかかわる手続きを捉える視点です。ここが見えていない案件では、判断自体は前向きでも、最後の段階で止まるリスクを抱えます。案件のヨミを立てるうえでは、「決まった後に何が必要か」まで含めて把握しておく必要があります。

Identified Pain:解決すべき課題は何か

Identify Painは、顧客が解決しようとしている課題の本質を捉える視点です。「成約率を上げたい」など課題が表層的なままの案件は、途中で優先度が下がりやすくなります。なぜ今この課題に取り組む必要があるのかが説明できるかどうかが、判断の分かれ目になります。

Champion:内部で前に進める人は存在するか

Championは、営業が関与できない場で案件を前に進める役割を担う存在です。導入に前向きなだけではなく、意思決定への影響力や推進力を持つ人物であり、チャンピオンとの関係が築けていない案件は、見えないところで失速しやすく、進捗の説明も難しくなります。

Competition:何と比較されているのか

Competitionは、競合サービス代替手段を捉える視点です。比較対象が整理されていない案件では、なぜ選ばれるのか、あるいは選ばれないのかを説明できません。ヨミの精度を高めるには、顧客の比較構造を把握しておく必要があります。

案件の判断軸が8つに拡張された背景

案件の判断軸が8つに拡張されたのは、意思決定が、特定の役割や一度の判断だけでは完結せず、複数の観点をまたいで進むようになったからです。

その結果、従来のフレームワークでは、初期の見極めや一部の判断には有効でも、案件全体を通して「どこが不確実なのか」を捉えきれないケースが生まれています。

MEDDPICCは、予算や決裁者といった一部の要素を見るためのものではなく、案件の検討から意思決定、契約に至るまでのプロセス全体を俯瞰するための枠組みです。だからこそ、案件のヨミが合わない理由を「構造として説明できる」ようになり、個人の感覚に依存しない、再現性のある判断が可能になります。

MEDDPICCを「理解する」だけでは、案件のヨミは改善しない

ここまでで、MEDDPICCが案件評価において有効な判断軸であることは理解できたはずです。しかし、MEDDPICCは知識として理解しただけでは、案件のヨミを改善しません。

8つの判断軸は、案件の進行とともに変化します。意思決定に関わる人物が変わることもあれば、評価基準や承認プロセスが途中で更新されることもあります。つまり、MEDDPICCは一度整理して終わりではなく、継続的に追い続けることではじめて意味を持ちます。

この「更新し続ける必要がある」という性質こそが、MEDDPICCを現場で扱う難しさでもあります。

案件のヨミを「構造で語れる状態」を、どうつくるか

MEDDPICCを営業担当者のヒアリングやCRM入力だけで回そうとすると、次第に限界が見えてきます。案件ごとに8つの観点を整理し、変化を追い、最新の状態を共有し続けることは、現実的には大きな負荷になります。

その結果、情報の粒度は人によってばらつき、更新も追いつかなくなります。形式上はMEDDPICCを使っているように見えても、実態としては再び感覚的な判断に戻ってしまう。これは多くの組織で起きていることです。

案件のヨミを安定させるために必要なのは、MEDDPICCで整理すべき情報が、自然に、自動で、継続的に、同じ粒度で蓄積されていく状態をつくることです。

商談の中で交わされている会話ややり取りの中には、MEDDPICCの判断に必要な情報がすでに含まれています。それらを後から思い出して整理するのではなく、判断に使える形で構造化していくことができれば、案件評価は大きく変わります。

まとめ:MEDDPICCを「使い続けられる判断軸」にするために

複雑化が進むアカウント営業において、MEDDPICCは、案件を構造的に捉えるための有効なフレームワークです。案件のヨミが合わない理由を、感覚ではなく構造として説明できるようにする。そのための共通言語として、MEDDPICCは設計されています

一方で、MEDDPICCは「理解しただけ」で機能するものではありません。案件の進行にあわせて判断軸を更新し続けられるかどうかが、成果を分けます。

もし、案件のヨミに違和感を覚えているのであれば、まずは自社の案件をMEDDPICCの視点で見直してみてください。

そのうえで重要なのは、この判断軸を一時的な取り組みで終わらせないことです。案件ごとの状況を、同じ視点・同じ粒度で扱い続けられる状態をどうつくるか。その仕組み化こそが、営業の判断精度を高め、生産性を引き上げるための土台になります。

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