この記事は約 9 分で読めます。
インテントとは?
「インテント(intent)」は「意図」「目的」を意味しており、ビジネスやテクノロジーの様々な分野で使われています。例えば、マーケティング領域では顧客の興味関心や行動の意図、チャットボットやAndroid開発ではシステム的な処理要求やユーザー行動のトリガーなどを指します。顧客が「何を求めているのか」を指す意味合いで使用されることが多く、インテントを起点とした効果的なアプローチがビジネスの成長やサービス向上の鍵となる重要な要素です。
インテント経営モデルとは?
インテント経営モデルは、「顧客インテントを基にした事業領域のインテントホイール」と、「メンバー(従業員)インテントを活用した組織のインテントホイール」を組み合わせた新しい概念の経営手法です。顧客の意図やニーズに基づくサービス提供と、従業員の意欲・能力を最大化する組織づくりの2つの視点を掛け合わせることで、組織全体の持続的な成長を促し、強固な経営基盤の構築を実現します。
なぜインテント経営モデルが重要なのか?
デジタル技術の革新、働き方の多様化、そして新たな価値観を持つ世代の台頭により、企業の経営環境は一層複雑性が増しています。定期的な市場動向の分析や従業員の意識調査といった従来型のアプローチでは、リアルタイムで変化する顧客動向やキャリア意識を捉えきれず、またそのような状況で大きな決断を迫られることも多いのではないでしょうか。
インテント経営モデルは、経営学の巨人ピーター・ドラッカーが「経営の本質」で説いた組織運営の基本理論を、現代のデジタル時代に適応させた新しいアプローチを提唱しています。ドラッカーは、組織の成功には「従業員の自己実現」と「生産性の向上」が不可欠であり、経営者の役割は組織の目標達成のための最適な戦略を見出し実行することだと説きました。インテント経営モデルは、この理念をデジタルテクノロジーを活用してより実践的なレベルで実現する手法を提案しています。
具体的には、事業の領域では、顧客のオンライン上の行動履歴を分析することで真のニーズを把握し、AIを活用して最適なタイミングで価値を提供することを可能にします。組織の領域では、日々の活動データや対話から個々の成長意欲や可能性を理解し、適切な成長機会を創出します。
この「顧客インテント」と「メンバーインテント」を体系的に分析・理解し、戦略に反映させることが重要なポイントです。
コロナ禍以降の新しい生活様式における非接触型コミュニケーションの増加や、人材の流動化が進む中で、データに基づく科学的な経営の重要性が増しています。インテント経営モデルは、まさにその時代に応える「インテント」を起点とした経営のカタチを提唱しています。
従来の経営モデルと「インテント経営モデル」
人的資本経営が注目される背景
企業価値の源泉が「モノ」から「人」へとシフトする中、「人的資本経営」が新たな経営戦略として注目を集めています。
背景には、知識経済化の進展やデジタル革新による産業構造の変化、そして少子高齢化に伴う人材獲得競争の激化があります。加えて、企業の社会的責任や持続可能な成長への注目が高まる中で、投資家や社会から人材への投資や育成を重視する企業経営が求められる傾向があります。
人的資本経営は単なる人事施策ではなく、持続的な競争優位性を確立するための戦略的アプローチとして、現代における経営の最重要テーマのひとつとなっています。
経営モデルの進化と実務での課題
ピーター・ドラッカーの経営理論を基盤とした様々な経営モデルは、MBOやOKR、ティール組織、人的資本経営などに大きな影響を与え、これらのモデルは組織の目標達成と成長に大きく貢献してきました。
しかし、実務での運用に落とし込むには、いくつか課題があげられます。
例えば、今日・明日の売上を伸ばすことと将来の成長に向けた投資のバランス、専門性の高い仕事の成果をどう評価するか、従業員の自由な発想を活かしながら組織としての方向性を保つことなどが課題としてあげられます。
特に近年は、デジタル化の加速や働き方の多様化により、これらの課題はより複雑化しています。
こうした状況下では、経営モデルを画一的に導入するのではなく、自社の特性や環境に応じて柔軟にカスタマイズし、継続的な改善を行い運用していくことが求められます。
インテント経営モデルの2つのホイール
従来の経営モデルが直面してきた課題に対し、インテント経営モデルでは、2つのインテントホイールを組み合わせることで、組織の持続的な成長を促進します。
事業のインテントホイール
顧客インテント(自社サービスに興味関心を持っている可能性を示す行動)を起点に、マーケティングやセールス活動を行う新たなBtoB事業のグロースモデルです。
「インテントジェネレーション」「インテントシグナル」「インテントアプローチ」という3つの構成要素を循環させることで、持続的に事業を成長させる仕組みです。
組織のインテントホイール
事業のインテントホイールの考え方を組織開発に応用した、従業員のインテントを起点とした新しい人材マネジメントの仕組みです。
①インテントジェネレーション:従業員の可能性を引き出す
従業員の成長意欲や潜在的な可能性を引き出すための機会を創出します。具体的には、幅広いe-ラーニングプログラムの提供や、スキルアップ講習の実施などを通じて、従業員の新しい興味や関心を喚起します。
②インテントキャッチ:従業員の意図を把握する
従業員の様々な行動や反応から、その意図や希望を汲み取ります。1on1面談での対話、人事評価の結果、社内ポータルサイトの閲覧履歴など、多様なデータを活用して、新しい仕事への興味関心や成長に関する課題感、現在の業務満足度などを把握します。
③インテントアサイン:最適な成長機会を提供する
把握したシグナルに基づいて、個々の従業員に最適な成長機会を提供します。具体的には、インテントに沿ったプロジェクトへのアサイン、必要なスキル習得のための研修実施、留学や出向などの経験を積む機会の提供を行います。このアプローチは、インテントセールスと同様に、従業員の課題やニーズに沿った形で実施されることが重要です。
【インテントセールス】の詳細はこちら
この3つの要素を循環させることで、従業員の継続的な成長と組織全体の発展を目指します。重要なのは、これらのプロセスが一方通行ではなく、継続的な循環を形成している点です。
インテント経営モデルは、事業と組織の両面でインテントホイールを効果的に機能させることで、持続的な企業価値の創造を実現します。デジタルデータを活用しながら、顧客と従業員双方の意図を深く理解し、それに基づいた戦略的なアプローチを展開することで、組織全体の成長を促進するのです。
組織のインテントホイールの事例
新規事業開発チームへの参画希望者のケース
①インテントジェネレーション
- 社内アクセラレータプログラムやピッチイベントの常設
組織全体でイノベーションを促進するため、一定期間ごとに新規事業アイデアを募集する。 - プログラムを設計し、社内公募イベント(ピッチ大会など)を開催
アイデアの優秀者には、試作段階から本格検討まで、新規事業チームに一時的に参加できる権利を付与する制度を用意する。
②インテントキャッチ
- 入社4年目のエンジニアがピッチイベントに何度も参加・閲覧。
- 過去は主に開発業務に従事していたが、アイデアソンやピッチで発表される事業案に強い関心を示し、社内SNSで積極的に感想や質問を投稿。
- 同時に“新規事業立ち上げノウハウ”や“リーンスタートアップ”に関する社内外の研修動画を多数視聴している履歴が確認できる。
- 普段のエンジニアリングだけでなく、マーケティングやユーザーリサーチなど他部門と連携しながら事業を作るプロセスに強い興味を持っていることが明らかになる。
③インテントアサイン
- 上司が面談を実施し、社内公募応募を後押し
ヒアリングした結果、新規事業開発のチームに入りたいという意向が強いことを再確認。
ちょうど次回のアクセラレータプログラムが公募を開始しているため、応募手続きをサポートする。 - 社内公募に合格し、試作プロジェクトの一員としてアサイン技術スキルだけではなく、企画・マーケ・ファイナンスなど幅広い知識を獲得する機会を得る。
インテント経営モデルの実践
Sales Markerでは、インテント経営モデルを実践する具体的なアプローチとして、インテントを起点としたBPIソリューションを提供しています。特に、顧客インテントと従業員インテントを同時に捉えた、セールス・マーケティング領域での活用が効果的です。
具体的には、見込み顧客の獲得から育成、受注に至るまでの全プロセスを可視化し、データドリブンで最適化を図ります。重要なのは、個人の営業力に依存せず、組織全体の仕組みとしてインテントホイールを回すことです。
例えば、マーケティングオートメーション(MA)やCRMを活用して顧客の行動データを収集・分析し、そこから読み取れるインテントに基づいて最適なアプローチを実施すると同時に、従業員の行動データや1on1での対話内容を分析することで、個々の適性や成長意欲を把握し、最適な役割やプロジェクトへのアサインを実現します。
インテント経営モデルは、事業戦略と人材育成を統合的に進める仕組みを提供します。顧客と従業員双方のインテントに基づく継続的な改善サイクルを確立することで、持続的な企業価値の向上を実現します。
まとめ
インテント経営モデルは、データとテクノロジーを活用して顧客と従業員双方の「インテント(意図)」を理解し、事業と組織の両輪で成長を実現する新しい経営手法です。
従来の経営モデルが抱えていた「目先の成果と将来への投資のバランス」「専門性の高い仕事の評価」「従業員の自主性と組織の方向性の両立」といった課題に対して、データに基づく科学的なアプローチで解決を図ります。
インテント経営モデルは、現代の複雑な経営環境において、持続可能な企業価値の向上を実現する有効な手法といえるでしょう。