
はじめに
インターネットの普及にはじまり、スマホの登場、SNSの流行などを経て、誰もが簡単に世の中に向けて情報を発信できるようになりました。こうした現代において、BtoBマーケターが自社のコンテンツにターゲットを誘導することは、容易ではありません。
このような状況において、顧客データの重要性はさらに高まっています。
多くの企業がさまざまなツールを駆使して、データ収集やターゲットの抽出、ターゲットの嗜好分析を行い、パーソナライズしたコンテンツを配信することでより多くのクリックを集める努力をしています。
そんな中、2015年ごろから米国で急速に注目を集め、2022年ごろから日本でも利用者が加速度的に増え続けているのが「インテントデータ」です。
インテントデータとは、ターゲットの購買意図(インテント)を示すデータを指します。
Web上の行動履歴データをもとに、今、「誰」が「どんな課題やニーズを持つ」のか、「どのようなソリューションを検討」しているのかなどを分析し、企業の購買意図の有無や強さを可視化することができるデータです。
米国では、BtoB向け事業者の約7割がインテントデータを活用していると言われており、インテントデータが最も大きく影響するマーケティング業務のひとつに「デジタル広告」が挙げられています。
この記事では、インテントデータとそのインテントデータをデジタル広告に活用した「インテント広告」について解説します。
インテントデータとは
インテントデータとは、顧客の興味関心を知るためのデータ、つまり、Web上で意図(intent)を持って起こした企業の行動データです。
なかでもサードパーティインテントデータは、検索クエリや外部メディアの閲覧履歴など、広範囲にわたるWeb上の行動履歴データで構成されています。これらのビッグデータを分析・可視化することができれば、見込み客が、今どのような課題やニーズを持っているのか、どのようなソリューションの購入を検討しているのかなど、ターゲット企業ごとの興味関心の度合いや検討状況をつぶさに把握することができます。
デジタル広告にインテントデータを活用する
2021年に米国で行われた調査データでは、回答者であるBtoBマーケターの90%以上が「インテントデータの有用性」を認める結果となりました。また、同調査内において、64%のマーケターが「デジタル広告」におけるインテントデータ活用の影響が最も大きかったと回答していたことがわかりました。

従来のデジタル広告と比べて、インテントデータを活用した「インテント広告」のほうが効果が高くなる理由は単純明快です。
ひとつは、ターゲットアカウントの特定。
インテントデータがあれば、「自社製品・サービスに対するニーズがある」、もしくは「興味を持つ可能性が高い」傾向を示す行動を起こしているターゲットアカウントを特定することが可能になります。
もうひとつは、ニーズや興味関心の把握。
ターゲットのニーズや興味関心の傾向がわかるため、それらの情報をもとにメッセージや手法をカスタマイズすることで広告クリエイティブの最適化につながります。
では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
ターゲティング精度の向上
広告の理想は、今ニーズがあるターゲットに対して、そのニーズにピッタリ合ったクリエイティブを配信すること、つまり、より精緻なパーソナライズができることではないでしょうか。インテント広告の最大の魅力は、まさにそれが実現できるところにあります。

上図は、インテント広告の基本的な流れを示していますが、ここで解説する「ターゲティング」はインテント広告1つ目のステップです。
①特定のトピックをリサーチ(検索)している企業を特定
上図の例では、「CM 動画 制作会社」や、「ゲーム CG 制作会社」で検索していることを条件に、該当する企業をリスト化しています。
②業界や従業員数などの属性情報をかけ合わせて、よりターゲティング精度を高める
例えば、「CM 動画 制作会社」での検索、かつ「化粧品メーカー」、かつ「500名以上」など、ターゲットの絞り込みを行います。
従来型広告との違い
従来型の広告でも、検索連動型広告であれば、特定のキーワードで検索が行われたときに広告を表示することは可能です。そのキーワードで検索した全員に対して、あらかじめ用意したいくつかのパターンのクリエイティブのどれかが表示される仕組みがあります。特定のキーワードで検索していることから、それらの顧客はニーズが顕在化している可能性が高いと言えるでしょう。
しかし、そこに属性情報を紐づけて広告を出し分けることはできません。検索キーワードという軸だけで一律的に広告が表示されるため、自社の広告を表示する相手が、必ずしもアプローチ対象となるターゲット企業であるとは限らないわけです。
検索連動型広告でない場合は、オンライン上の行動(閲覧履歴など)から、現在の興味・関心事や嗜好性を分析したターゲティンググループが作成されるものがあります。
しかし、それらのターゲティング項目は、BtoBマーケターが欲しい粒度の属性データとはほど遠いものでした。
BtoBマーケターにとっては、「製造業」や「EC事業者」など特定の業種でのターゲティングや、「100名以下」「500名以上」などの従業員規模、あるいは「東京」「大阪」のような地域での切り分けが重要になります。その背景として、業種や企業規模、地域などの違いで、自社の製品やサービスに対して価値を感じるポイントが大きく異なることが往々にしてあるからです。では、企業属性情報でターゲティングが可能な広告がないのかというと、存在はします。ただし、そこに「検索行動」など「ニーズの有無」を示すデータを条件に加えることはできません。
このような従来型の広告の不足部分を補い、顧客のニーズの有無と属性情報を掛け合わせてターゲティングできるのが、インテント広告なのです。
インテント広告では、この「今ニーズがある」可能性が高いことを示す「検索行動」に紐づくターゲティングと、BtoBマーケティングにおいて重要度の高い「業種」や「従業員数」「地域」などの属性情報に紐づくターゲティングを両立することによって、非常に高度なターゲティングが可能となります。
パーソナライズによるクリック率とコンバージョン率の向上
広告のクリック率に対して、コピー(文言)やバナーイメージなどの「クリエイティブ」は非常に大きな影響力を持ちます。
BtoBマーケターは、訴求軸はもちろん、視認性や色、構成要素など、よりクリック率が高くなるクリエイティブを、ABテストを繰り返し行いながら常に追及しています。ですが、最も効果の高い「クリエイティブの最適化」はやはり、パーソナライズではないでしょうか。インテントデータの活用は、この点においても大きな効果があります。

前述のとおり、インテントデータは「検索」などのWeb上の行動履歴データを可視化することができるため、ターゲットが今抱えている課題や関心事、自社サービスに対するニーズの有無などを、ある程度推測することが可能となります。
例えば、今「認知施策 BtoB」と検索している企業は、特定の商品やサービスの認知率を課題視している可能性が高く、かつ具体的な認知向上施策がまだ頭には浮かんでいない状態であることが推測できます。こうした企業に対して、認知やブランディングに特化したBtoBマーケター向けのセミナーに招待する広告を配信する、つまり、今の顧客のニーズに合わせたアプローチができるようになるのが、インテント広告なのです。
さらに、属性情報で絞り込むことができれば、「100名以下の企業向け:自社サービスの認知率を上げる方法 (大阪開催)」のように、ターゲットに対して最適化したクリエイティブの配信が可能となり、クリック率の向上につながります。
広告費の最適化
ターゲティング精度の向上は、広告費用の最適化にもつながります。
ターゲティングの精度が上がれば、これまでほぼ無差別に配信されていた広告を無駄なく配信することが可能になり、その結果、広告費用の高騰を防ぐことができます。
インテント広告におけるターゲティング方法の1つとして、「特定のキーワードで検索をしている企業」かつ「自社のターゲット属性に該当する企業」という条件でリストを作成し、そのリスト内の企業にのみ広告を配信することができます。
さらに、検索しているキーワードから顧客のニーズを推測し、クリエイティブに落とし込むことで、訴求効果も高まります。
インテント広告の始め方
インテント広告をはじめるためには、インテントデータの活用、なかでも検索クエリや閲覧メディアなどがわかるサードパーティインテントデータへのアクセスが不可欠です。ただし、ローデータのままでは使えないため、AIや機械学習を使ってデータを処理・分析することのできるセールスインテリジェンスの導入が有効です。
インテントデータを搭載したセールスインテリジェンスとして、米国ではZoomInfoが有名ですが、日本国内においても、Sales Markerが(2023年時点で)国内唯一のツールとして注目を集めています。
ZoomInfo含めグローバル規模で比較したSales Marker固有の最大の特徴は、 AIを活用したマルチチャネルアプローチです。Sales Markerには、インテント広告のほかにも、インテントDMやインテントフォームなど、いくつものアプローチチャネルが備わっています。そのため、膨大なデータからターゲットを導き出すだけではなく、その企業のキーマンに最もつながりやすいチャネルをAIが選定し、自動でアクションを起こしてくれるのです。
まとめ
インテントデータをデジタル広告に取り入れた「インテント広告」は、BtoBマーケターが理想とする「ターゲット」のみに「パーソナライズ」した広告配信を実現し、効果を大きく向上させることが期待できます。
特定のキーワードを検索しているターゲットのみに対して広告を表示する検索連動型広告の特性と、ターゲットを属性ごとに分けて配信できるディスプレイ広告の特性のふたつを両立し、かつ、企業単位で決め打ち配信することができるため、無駄なく効率的に運用することが可能です。
インターネットの普及を皮切りに、BtoBマーケティングは幾度となく大きな変化を迎えてきました。テクノロジーの発展は加速度的に進み、数年前の常識でさえ古くなる現代において、最新の手法をキャッチアップすることは、非常に重要で必要不可欠といえます。
インテントデータの活用は、日本国内においては2022年からはじまり、今「最新」の手法として注目を集めています。時代遅れのマーケティングにならないよう、インテント広告にもぜひ目を向けてみてください。
この記事を書いた人


この記事を書いた人
小笠原 羽恭
CrossBorder株式会社 代表取締役 CEO。 新卒で野村総合研究所に入社後、基幹システムの開発・PM・先端技術R&D・ブロックチェーン証券PFの構築・新規事業開発に従事した後、コンサルティングファームに転職し、経営コンサルタントとして、新規事業戦略の立案・営業戦略立案・AIを活用したDXなどのプロジェクトに従事。その後、グローバル規模での市場動向調査・営業戦略立案・事業戦略立案をデータとAIで効率化・高度化することを目指してCrossBorder株式会社を創業。代表を務める。国内初のインテントセールスを実現するSales Markerを提供。Forbes 30 Under 30 Asia Listノミネート。一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)の協議員。